COLUMNコラム
リノナビエッセイ
「落書き」
久々に実家に帰り、お客さま用のお布団に横になる。
かつて私の部屋だったその部屋は、今ではすっかり客間と化していた。ふと顔を横に向けると横には古い本棚が置かれていた。
小さい頃からあったその本棚は、父と母が結婚時に購入したのか、兄の誕生を機に購入したのか・・・いずれにしても私が物心ついた頃には既にわが家に置かれていたものだった。
懐かしく見ていると、本棚の一番下の引き出しよりもさらに下の部分に落書きがあった。油性ペンで大きく「よ」という字が書かれている。
書いた張本人は・・・私だ。
何歳頃のことだかもう覚えていないが、私の部屋に置かれていたその本棚に「よ」と書いた事は今でもしっかりと覚えている。
字を覚えたてで、私は自分の名前の一文字の「よ」がとても上手に書けるようになったと誇らしく思っていた。
至るところに「よ」と書いて回っていた。
当然母に注意され、どこにでも「よ」と書いてはいけないことはわかっていた。しかし、寝る直前に本棚の下のスペースがふと目について離れなかった。
周りに誰もいない事を確認し、本棚の真ん中あたりに置いてあったペン立てから油性ペンを取り出す。今までで一番上手に「よ」を書こうと心に決め、本棚にペン先を当てた。
今までで一番上手に「よ」と書くつもりだったのに、紙に書くのとは違い、本棚の木目にペン先が取られてしまった。
結局丸みを帯びて書きたかった部分は木目に沿った直線的な形になってしまい、最高に美しい「よ」が書けなかった。
丸みを帯びさせたい部分を重ねて書いたけれども、やはり木目にペン先が取られてしまい上手に書けない。
上手に書けなかったことにがっかりして書くのをやめた。我に返って見つかったら怒られると思った私は油性ペンを元に戻し、何事も無かったかのようにもう一度布団の中に入った。
こっそり書いたから見つからないという思いと、見つかったらどうしようという思いでドキドキしながら眠りについた。
次の日、母に怒られることは無かった。きっと床に近い場所だったから見つからなかったのだろうと思う。
次の日も次の日も、その次の日も、結局母に注意されることは無かった。
母がいつ頃この落書きを見つけたのかわからないが、きっともう私自身落書きをしない年齢になってから見つけたに違いない。
キレイ好きの私の母からしたら、小さい頃の私の落書きには大変な苦労をしたのではないかと思う。
私の落書きを消して回る若かりし頃の母の姿を思い浮かべ、思わず笑ってしまった。
せめて鉛筆や水性ペンで書いてくれたら消したり薄めたり出来たものを、ベットリ油性ペンで書いたものだから消すことが出来なかったに違いない。さぞかし悔しい思いをしたことだろう。
そうして今でも残された「よ」の文字。当時は憎き油性ペンだったが、今となってはよくぞ油性ペンで書いたものだ。おかげで消されることもなく、当時の筆跡をそのまま残している。
思わず母を呼んで2人で眺めた。
当時最高に上手に書こうとして書けなかった「よ」の文字だが、そもそも字を間違えていて、鏡文字のようになっている。
どうしてこんなところに「よ」と書きたくなったのか・・・。
母曰く、傷も汚れもキレイにリフォームしたいと思いつつ、その傷や汚れをいつまでも眺めていたいらしく、未だリフォームできないでいるそうだ。
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